アンジェリークは鼻歌交じりに、キッチンに立っていた。
愛する人の為に食事を作ってあげられる唯一の曜日。
そう、今日は日の曜日。
メイドもコックもいない、二人だけの食事が出来る日であり、職務を忘れて、愛する人と一日ゆっくり過ごせる日でもある。
今も、少し遅い朝食と昼食をかねたブランチを作っている。
「ふふ、レヴィアス、喜んでくれるかな」
アンジェリークは、料理の味見をしながら、愛しい人の、優しく穏やかな深い笑顔を浮かべ、ウキウキする。
思えば二人の間には色々あった。
それらを乗り越え、今一緒に入れることが、彼女には奇跡のように思え、神に感謝する。
彼があの時、私を置いて逝ってしまったら、私はきっと生きては行けなかった・・・。
「アンジェリーク」
背後に低くよく通る声が聞こえて振り返ろうとした時は既に遅く、彼女は後ろから抱きすくめられていた。
「レヴィアス! お料理の最中よ・・・」
アンジェリークは、真っ赤になりながら、やっとのことでレヴィアスを窘めるが、彼の抱擁に酔ってしまっている。
「おまえを迎えに来た」
レヴィアスは、アンジェリークの耳に唇を寄せ、甘く囁いた。
しびれるような感覚が彼女を襲い、呼吸が速くなる。
「こんなことで赤くなって、可愛いな・・・、おまえは」
「レヴィアス、お料理が出来ないから、・・・ね?」
アンジェリークは、恥ずかしそうに可愛い声を上げ、レヴィアスの手に小さな手を重ねる。
それがまた愛しくて、レヴィアスは穏やかな深い微笑を浮かべながら、ゆっくりと体を彼女から離してやった。
「もうちょっと、待っててね、お料理できるから」
「その前に、おまえに見せてやりたいものがある」
彼はそう云って、彼女の手を優しく握り締めると、外へと引っ張ってゆく。
「ちょっと、レヴィアス、お料理!」
「料理は、後でも逃げていかないだろう」
アンジェリークの制止も諸共せず、レヴィアスはコンロの火を素早く切ってしまってから、彼女を外へと連れ出す。
「もう! レヴィアスは強引なんだから!」
口調は怒ってはいるが、彼女がまったく怒っていないことを、彼は十分知っていた。
宥めるために、不思議な左右の色の違う瞳に優しく深い光を宿して、彼女に送る。
視線に酔って、アンジェリークは、そのまま黙り込んでしまった。
私って、レヴィアスのあの瞳に弱いな・・・。
うっとりとした溜め息を、彼女は静かに吐いた。
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二人は、朝の散歩の定番のコースである森へと入ってゆく。
アンジェリークは、レヴィアスの力強い手に小さな手を握られて、引っ張られるようにして、歩く。
彼の手はとても暖かくて、彼女を安心させる。
もう少し、強く握ってもいいよ・・・、レヴィアス・・・。
「ねえ、レヴィアス、どこに行くの?」
レヴィアスは、フッと深い微笑を彼女に向けるだけで、何も答えない。
「ね〜、どこ行くかだけでも・・・、きゃっ!!」
レヴィアスに訊くのに夢中になっていたアンジェリークは、足元を取られ、そのまま躓いた。
「アンジェリーク」
レヴィアスは、アンジェリークをその逞しい腕で受け止める。
「あ、有難う・・・、レヴィアス・・・、きゃッ!」
今度は、甘い悲鳴が、アンジェリークから漏れる。
レヴィアスは、そのままアンジェリークを横抱きに抱き上げて、歩き始めた。丁度"お姫様抱っこ"の状態だ。
「ねえ・・・、レヴィアス、恥ずかしい・・・、誰か見てたら・・・」
アンジェリークは、両手で顔を覆い、可愛らしくはにかんでいる。
その姿が、レヴィアスは何よりも愛しく思う。
「----誰かが見てるよりも、おまえが怪我をする方が、我は困る」
低音の魅力的な声が、アンジェリークの心に優しく落ちる。
心が温かくなって、満たされて、アンジェリークは、なんだか切なくなる。
「----レヴィアス・・・、大好き・・・」
アンジェリークの囁きに、レヴィアスは歩みを止めると、彼女に、唇を掠めるような優しいキスをした。
「・・・行くぞ」
「うん・・・」
アンジェリークは、レヴィアスの首にそっと腕を絡め、愛しげにその頭を彼の胸にもたれさせる。
レヴィアスも彼女に答えるかのように、心からの甘く魅力的な微笑を、彼女だけに浮かべた。
これには、アンジェリークはくらくらし、魅了されずにいられなかった。
南中をしようとしている太陽の柔らかい日差しが、レヴィアスの漆黒の髪を艶やかに輝かせ、深い影を作っている。
彼の横顔に、見惚れながら、アンジェリークは、彼には、やはり闇よりも光が似合うと思わずに入られなかった。
「----着いたぞ」
アンジェリークは、レヴィアスに下ろしてもらい、辺りをきょろきょろと見渡す。
いつもと同じ風景に、一瞬、頭をかしげた。
「いつもと同じだわ」
「足元を見てみろ・・・」
「足元・・・、うわあ!」
アンジェリークは、簡単の声を上げて、しゃがみこむ。
「に〜」
そこには、白くて小さな子猫が、アンジェリークに甘えるように近づいてくる。
「かわいい〜!!!」
アンジェリークは、本当に嬉しそうに声を上げると、子猫を優しく撫でてやる。
「おまえが喜ぶと思ってな」
レヴィアスも、静かに屈むと、アンジェリークと同じ目線になり、彼は愛しげに目を細める。
不思議な瞳に宿る光が、誰よりも優しいことを、アンジェリークは知っている。
「ね! どうして私が好きなものがわかったの?」
「----我の考えていることといえば、いつでもおまえのことだけだからだ」
アンジェリークは、涙が出る思いがした。
愛しくて、大好きで、堪らない彼にいつでもこんなに想われているのかと思うと、嬉しくて、嬉しくて、そして・・・甘い旋律を覚える。
「ありがと・・・、最高に嬉しい」
アンジェリークの瞳は感激で涙で曇り、それを隠すために、子猫に顔を埋める。
「・・・このコ飼っていい?」
「もちろんだ・・・。だけど妬けるな・・・」
レヴィアスは、少し笑みの含んだ口調で言うと、そのまま子猫ごとアンジェリークを膝の上に乗せてしまった。
「レ、レヴィアス・・・」
アンジェリークは、顔を赤らめ、恥ずかしさの余り、俯いてしまった。
「おまえの愛は、我が独占したい・・・」
「レヴィアス」
彼は、アンジェリークの顎に手を当て、顔を上向きにさせると、子猫を抱いたままの彼女をそのまま深く口づける。
「・・・ん・・・!」
最初は温かく愛撫をするような口づけが、深く激しくなり、舌を絡ませ、お互いの想いを伝え合う。
頭が白くなるような甘い旋律を、レヴィアスはいつでもくれる。
甘いと息をつきながら、レヴィアスの唇が名残惜しく離されたのは、暫くたってからだった。
官能の余韻からさめると、子猫が喉を鳴らしているのに、アンジェリークはようやく気が付いた。
「名前、付けてあげないとね・・・」
「そうだな・・・。二人でつけよう」
レヴィアスも優しそうに微笑むと、子猫を撫でる。
「ねえ、レヴィアス」
「なんだ?」
「いつか・・・、いつかね、私たちに子供が出来ても、一緒に名前をつけようね?」
アンジェリークは、片手で子猫を抱きながらも、もうひとつの手は、レヴィアスの腕に回して、たっぷりと甘えている。
「そうだな・・・」
レヴィアスは、フッと穏やかに笑うと、愛しげに彼女の顔を撫でた。
甘い旋律が、アンジェリークを溶かしてゆく。
「さて、いくぞ」
「きゃ!]
アンジェリークは、再びレヴィアスに横抱きに抱き上げられ、再び"お姫様抱っこ"状態になった。
静かに、そして力強く、レヴィアスは元の道へと戻る。
「どんな名前にしようか?」
「おまえの好きにしていいぞ」
「一緒に考えよ! レヴィアスの名前みたく素敵なのを」
アンジェリークは、探るように呟く。
レヴィアスは一瞬体を固くする。
この名前は、彼に遠い闇の時代を思い起こさせからだ。
彼女は、彼の変化を感知しつつも、言葉を続ける。、
「レヴィアスの名前、私大好きだよ・・・」
アンジェリークは、探るように愛しそうに呟く。
「なぜ?」
「だって、あなたは、私だけの"正統なる者”だから・・・」
アンジェリークの言葉は、彼の心の氷を、またひとつ溶かしてゆく。
おまえはいつでも、我の欲しい言葉をくれる・・・。
愛しい、俺の天使・・・。
「そんな可愛いことを言うから、ブランチは止めだ。おまえを食べる・・・」
「えっ、もう・・、レヴィアスのバカ・・・」
アンジェリークは、とうとう彼の胸に恥ずかしそうに顔を埋めてしまう。
レヴィアスは、彼女にしか見せない、慈しみのある愛の溢れた笑顔を、フッと浮かべると、家路を急いだ。
もちろん、愛しい天使を食べるために・・・。
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コメント
キリ番500HITを踏んでくださった、みき様に捧げる「レヴィアスXアンジェリークのゲロ甘い〜新婚話」でございます。
みき様、リクエスト通りに出来ていたら嬉しいのですが・・・、そうじゃなかったらゆるしてくださいm(_)m
この二人だと、どうしても話がダークにいってしまうので、今回はあえて、それがないような設定を選びました。
最初は、逃亡する二人の甘くて切ない新婚話も考えたんですけど・・・。
これを書いてて、ふと、昔懐かしい「エースをねらえ!」の宗方・岡師弟コンビの設定が、二人にハマるな〜とおもいました。
パラレルで書くかも。
ところで、これのネタ繰りは仕事中にチョコチョコとやりました。館にある新婚さん向けのキッチンとか眺めながら、まとめてたんです。
私、仕事中に話を思いつくとメモをとるようにしているんですが、今日、これをまとめようと思ってメモを見たら・・・
「レヴィアスはんちょろげ」
とかいてありました。
ええ、自分でも意味が不明で、恐ろしくなっております・・・。
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